この議論は、日本評論社『ガンマ関数入門』 - E. Artin / 上野健爾訳 の議論をベースにしたメモ書きを清書したものである。
ガンマ関数は、自然数の階乗を一般の数の場合に
意味のある形で一般化する問題である。
つまり、正の整数$n$に対して$n!$という値を持ち、
一般の実数に対してその表示を拡張するものである。
それを追っていくと、
$$ \int_{0}^{\infty} e^{-t}t^n dt = n!$$
という広義積分の表示が得られる。
これは、左辺の整数$n$を(積分の収束するかぎり)
自然数から任意の実数に換えることによって、
その任意の実数$z$に対して
$z!$をこの積分の値として定義できることを示唆する。
ここでは、慣例に従って、正整数$n$に対して、
$(n-1)!$を値に持つ関数を導入する。
\begin{eqnarray}
\Gamma (z) = \int_{0}^{\infty} e^{-t}t^{z-1} dt
\end{eqnarray}
この関数$\Gamma (z)$をガンマ関数と呼ぶ。
われわれは、この積分が収束する$z$の値を求めることにする。
上の右辺は、以下のように分割することができる。
\begin{eqnarray}
\int_{0}^{\infty} e^{-t} t^{z-1} dt = \int_{0}^{1} e^{-t} t^{z-1} dt + \int_{1}^{\infty} e^{-t} t^{z-1} dt
\end{eqnarray}
まず、右辺の第一項について考える。
$t > 0$のとき、$e^{-t} < 1$より、
被積分関数は$t^{z-1}$より小さくなる。
つまり、
\begin{eqnarray}
\int_{\varepsilon}^{1} e^{-t}t^{z-1} dt < \int_{\varepsilon}^{1} t^{z-1} dt = \left[ \frac{1}{z} t^z \right]_{\varepsilon}^{1} = \frac{1}{z} - \frac{\varepsilon ^z}{z}
\end{eqnarray}
が成り立つ。したがって$z > 0$のとき、
$\int_{\varepsilon}^{1} e^{-t}t^{z-1} dt$ は$1/z$で上から抑えられる。
$z$を固定し、$\varepsilon$を小さくしていけば、
この積分の値は単調に増加する。
つまり、
\begin{eqnarray}
\int_{0}^{1} e^{-t}t^{z-1} dt = \lim_{\varepsilon \to 0} \int_{\varepsilon}^{1} e^{-t}t^{z-1} dt
\end{eqnarray}
が存在する。
右辺第二項について考える。
$e^t$のTaylor展開は以下のようである。
\begin{eqnarray}
e^t = 1 + z + \frac{z^2}{2!} + \frac{z^3}{3!} + \frac{z^4}{4!} + \cdots = \sum_{i=0}^{\infty} \frac{z^i}{i!}
\end{eqnarray}
$t > 0$のとき、このすべての項は正であり、
またすべての正整数$n$に対して
\begin{eqnarray}
e^t > \frac{z^n}{n!},
\end{eqnarray}
つまり、
\begin{eqnarray}
e^{-t} < \frac{n!}{t^n}
\end{eqnarray}
が成立する。
これより、
\begin{eqnarray}
e^{-t}t^{z-1} < \frac{n!}{t^{n+1-z}}
\end{eqnarray}
も言える。
$z$を固定したまま、$n > z+1$を選ぶと、
(右辺の積分形が$$n!\left[ \frac{1}{-n+z} t^{-n+z} \right]_{1}^{u}$$となり、)
$n!/n-z$を積分$$\int_{1}^{u} e^{-t} t^{z-1} dt$$の上界として選ぶことができる。
$u$が増大するならばこの積分の値も増大し、
\begin{eqnarray}
\int_{1}^{\infty} e^{-t}t^{z-1} dt = \lim_{u \to \infty} \int_{0}^{\infty} e^{-t}t^{z-1} dt
\end{eqnarray}
も存在することが言える。
よって、(2)式により、(1)式のガンマ関数が正の数$z$に対して収束することが言える。
ガンマ関数のプリミティブな性質として、
\begin{eqnarray}
\Gamma (z+1) = z\Gamma (z)
\end{eqnarray}
がある。
これは、(1)式の$z$を$z+1$に換え、近似の積分を部分積分すればわかる。
つまり、
\begin{eqnarray}
\int_{\varepsilon}^{u} e^{-t}t^{z} dt &=& [-e^{-t}t^z ]_{\varepsilon}^{u} + z \int_{\varepsilon}^{u} e^{-t}t^{z-1} dt \nonumber \\
&=& e^{-\varepsilon}\varepsilon ^z - e^{-u} u^z + z \int_{\varepsilon}^{u} e^{-t}t^{z-1} dt
\end{eqnarray}
であり、結局この右辺の第一項第二項が極限において消えてしまう。
すると、与えられた公式が得られる。
これは、整数$n$での$n! = n \cdot (n-1)!$の一般化である。